モコメシ・アトリエ [みんなのキッチン] / 2012


 

倉庫を改修したフードデザイナーのアトリエである。
ケータリングの仕込みや撮影をするキッチンスタジオをただ閉鎖的につくるのではなく、料理を教えたり、近所の人や友人とごはんを食べたり、雑貨を展示したりと、時には周りの人々を巻き込むような実験的な場所にすることを提案した。

料理を中心とした多彩な活動を展開する場として、食に関するエンターテイメント空間の古典「会所」を参照した。中世に闘茶や歌の会が行われた「会所」の基本はガランドウ。そこにイベントに合わせて調度品で飾り付ける。

まず、椅子+収納で「ベンチ棚」、窓枠+収納で「窓棚」、作業カウンター+テーブルで「みんなのテーブル」 というように役割を重ねて家具を減らし、ガランドウをつくった。   
次に調度品代わりにモノを並べた。料理や雑貨はイベントごとに入れ替えるメインの調度品である。 調理用具・食器など雑多に見えがちな小さなモノたちは「ベンチ棚」「窓棚」柱間などのフレームに並べ、点景に見立てた。

最後にこれらの調度品が引き立つように、モノの隣接関係を調整した。華やかな料理→工業製品のように端整な食器→少し古びたザラザラの家具→艶の有る床→ ザラザラな特殊な塗料の壁→光沢の有るステンレスの厨房機器というように質感や色彩が異なる素材のモノを隣接させ互いが引立つようにした。

天気の良い日のイベントでは、入口を開け放ち、ベンチ棚を外に出し、まるで下町の交差点から美味しい料理と楽しい時間が溢れ出てくるようである。固定したスペースをもたずノマディックに仕事をしてきた遊牧少女が、ある地域社会に食の場と技術を提供しながら定着するかたちを設計した。

 

 

受賞
第4回建築コンクール古谷誠章賞
設計
立花美緒設計事務所
所在地
東京都
写真
松岡一哲(3,5), VISION GLASS JP(4), 立花美緒設計事務所(1,2,6,7)